【紙ふうせんブログ】

令和6年

紙ふうせんだより 12月分 (2025/02/10)

せわしなさを越えて

 師走ですから忙(せわ)しないと思います。事故等にはお気を付け下さい。まずは皆様に御礼申し上げます。皆様の頑張りによって笑顔の利用者さんが増えたと信じております。本年はどうもありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。

タイパ志向の弊害

 近頃は老いも若きも忙しくしています。時代がそうさせるのでしょう。最近は「タイパ(※1)」と称して無駄な時間を嫌う若者もいます。寸暇を惜しんでトイレの中も電車の中もスマホに釘付けになって情報の消費に追われながら、次から次へと画面をスワイプします。2時間の映画は長すぎるので倍速再生をします。逡巡する間合いや息を呑むような沈黙は、早送りでスルーされます。

 登場人物の息づかいを賞味しながら自らを鑑みるという「鑑賞」ではなく、あらすじさえ把握出来れば良いという考えです。時間節約志向によって何にでも「速さ」を求めてしまうようになると、「熟慮」はどうしても疎(おろそ)かになってしまいます。




※1 タイム・パフォーマンスの略。費用対効果を指すコスト・パフォーマンス(コスパ)をもじってできた造語。




考えないで「判断」してしまう

 前提条件が1つ2つしかない問題と10も20もある問題は、条件が少ない方が「判断」が速く済みます。条件が多ければ優先度や重みを考量する必要があるからです。では、ある問題を構成する要因として視野に入っているものが1つ2つなのと、10も20も見えている場合、どちらがより適正に判断ができるでしょう。多い方が適正に近づくはずです。つまり、考えるということは、拙速(せっそく)に判断したい欲求(考えたくない欲求)を抑えて視野を広げて、更に考えを深掘りするというところに意味があります。「考えること」と「判断すること」は逆のベクトルを持つのです。

 しかし、判断したことを持って「考えた」と主張する「取り違えている人」がいます。人は、時間をかけたくないと思うと、考慮すべきめんどうくさい要素を無意識的に無視します。速さではそれが合理的だからです。そして、無視する要素は自分の思惑に沿わないものなので、気が付かずに判断は自分の願望に引きずられます(※2)。こうやって失敗は構造的に繰り返されます。これは「考えなかった」結果なのです。




※2自分の先入観や思惑を補強できるような都合のよい情報ばかりを見てしまう心理傾向は誰でも持っており、確証バイアスと言う。




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成熟とは「宙吊り」に耐える力

 哲学者の内田樹は、日本文化の特質を「『どこにも着地できないで宙吊りになったままでいられること』を成熟の指標と見なす」と述べています。難しい物事の難しさを理解せずに簡単なように言うことは誰にでもできますが、難しさの重みに耐えながら「宙吊り状態」の中で舵を取り続け時機の到来を待つということは、誰にでもできることではありません。

 「考える」ということは判断を留保することです。手持ちの情報の貧弱さに判断留保は選択されます。熟慮しようと決めた時、人は五感と記憶と思考をフル稼働させます。見落としはないか、理解を取り違えている問題は無いか、大切な事を聞き洩らしてはいまいか…。今までとは違う見方ができるようにならなければ、それらを発見することはできません。

考えることの目的は「視座が変わること」

 タイム・イズ・マネーと言われるような世の中です。決断を迫るプレッシャーは常にかかります。しかし、考えるということが必要な時は、「正か反か」どちらも選べないという競合があります。どちらも選ばないで、より最適解となる「合(ごう)」にたどり着くには、「正・反」を見下ろせる「合(※3)」の次元にまで自分の意識が変わらなければなりません。考えるということの目的は、まさにここにあります。今の自分の視点を脱して新しい視座を得ること。その跳躍を目指すことが考えるということなのです。

 心の中の競合に挟まれて葛藤にもがいている人に対して、河合隼雄(※4)は、魂が「ある」と思ってみると、ふっと次元がかわり、視座がより広がると述べています。「魂というものがあるかないか、そういうことを言っているのではない。『魂』という、ものの見方でみてみよう。」そうすることによって、損得や感情とは異なる見方ができるようになるのです。




こころの天気図」河合隼雄

魂が「ある」と思ってみると……

魂とか心とか言っても、誰もみたりさわったりした人はいない。実体はありません。ないけれども「ある」というふうにすると、自分の状態について違った観点から、ものが言えるわけです。――心が浮き立つとか、沈むとか、魂がゆさぶられるとか。そういうものがあるのだと「思ってみる」というのが一番近い言い方だと思います。

ユング派の分析家、ヒルマンという人が面白いことを言っています。

魂というものがあるかないか、そういうことを言っているのではない。「魂」という、ものの見方でみてみようと、そういうことなんだと。

そうやってみると違ってくるんですね。たとえば自分のしていることを、損得の面からみることもできる。また、自分の行為で誰が喜んだか悲しんだか、そういう感情面からみる見方もある。だけどもうひとつ、自分のこの行為で、私の魂はどう感じたろう、あの人の魂はどう感じたろうと思ってみるやり方もあるのだと。

そういう思い方をすると、ふっと次元がかわり、視座がより広がるんですね。




※3 正反合はヘーゲルの弁証法における用語。テーゼとアンチテーゼの葛藤を超克してジンテーゼに至ることを「アウフヘーベン」と言う。

※4(1928-2007)高校数学教師を経て心理学の道に進み米国留学。日本人で初めてスイスのユング研究所にてユング派分析家の資格を取得した分析心理学者。日本臨床心理士資格認定協会を設立(1988)。元文化庁長官。著作や著名人との対談が多数ある。




自分の枠を超えていく

 介護現場も時間に追われています。利用者さんが介護職員を呼び止めます。「(何?忙しいんだから。何だって?その話はさっきも聞いた。で、用があるの?無いの?無いなら私行くわよ)」と職員は心の中で思っています。職員は「(だからその話はさっき聞いたって!)」と、見通しが崩れてイライラします(※5)。「問題は無い」と判断して、さっさと次に行きたいのです。

 しかし、のんびりしてみせる勇気を持ちましょう。タイパ感覚では倍速映画と同じで、見落とす原因になります。言葉を聞いて終わりではなく、聴いたことを自分の心に入れて一言一句に重みを感じていきましょう。利用者さんの息づかいに触れ、利用者さんの目と耳と心で世界を見ようとすることが大切です。成熟とは待てることであり、様々な視座を受容できることでもあります。「自分の判断」を留保し、自分の見えてないものにも心を巡らせましょう。利用者さんの目や別の見方で自分自身を見てみようとすることによって感受性は高まります。

 自分が相手に及ぼしている影響を感じとっていきましょう。そうすると自然と自分の態度も柔らかくなり、相手も優しい表情になってくるはずです。全体と個がどのように相関しているのかを考えていくことも、五感で利用者さんを感じることも六感で魂を直覚しようとすることも、目指すところは同じです。自分の枠を超えた視座の跳躍を目指し、飛翔する鳥のような自由な目で世界を見ることができるようになること。人はそのような心の自由を求めています。

 見方が変わり解像度が高くなれば、何気なく通過していた日常の風景も、喜怒哀楽に美しく彩られた鮮やかな光景に変わっていくはずです。忙しくても新鮮で充実した日々となりますように。




※5河合隼雄はカウンセリング関連の著作も多く、話を聞きながらイライラするのは見通しが立っていない証、との旨を述べている。





紙面研修

感染症研修
感染症の流行 予防と対策
 

マイコプラズマ肺炎・伝染性紅斑が増加しています(厚労省)

マイコプラズマ肺炎、伝染性紅斑の定点当たりの報告数が増えており、例年の同時期と比べてかなり多い状況となっています(2024年12月現在)。

 

【マイコプラズマ肺炎】とは

 秋冬に増加する傾向のある、頑固なせきをともなう呼吸器感染症(肺炎マイコプラズマ細菌)で、患者の約80%は14歳以下(成人の報告もある)。発熱や全身の倦怠感、頭痛、せきなどの症状がみられます。せきは少し遅れて始まることがあり、多くは気管支炎で済み、せきは熱が下がった後も3~4週間残るなど軽い症状がしばらく続きます。しかし、一部の人は肺炎となるなど、重症化もあり得ます。(5~10%未満で中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎などの合併症の報告があります。)



※画像はイメージです

 

感染経路と予防と対策

 感染した人のせきのしぶき(飛沫)を吸い込んだり(飛沫感染)、感染者と接触したりすること(接触感染)により感染します。家庭のほか、施設などでも感染の伝播がみられます。感染してから発症するまでの潜伏期間は長く、2~3週間くらいです。短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くなく、濃厚接触により感染することが多いと考えられています。

 普段から流水と石けんによる手洗いをすることが大切です。感染した場合は、家族間でも洗面所等のタオルの共用(洗濯済のものを個別使用)は避け、マスクを着用しましょう。治療にはマクロライド系の抗菌薬が主に用いられます。

 

【伝染性紅斑(でんせんせいこうはん)】と

 両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」とも呼ばれます。ヒトパルボウイルスB19による小児を中心にみられる流行性の感染症です。患者の年齢分布では、5~9歳での発生が最も多く、ついで0~4歳が多いとされています。

 多くの場合、約10~20日の潜伏期間の後、微熱や風邪の症状などがみられ、この時期にウイルスの排出が最も多くなります。7~10日経って、両頬に蝶の羽のような境界鮮明な赤い発しん(紅斑)が現れます。この時点では、既にウイルスの排出はほとんどなく、感染力もほぼ消失しています。

 続いて、体や手・足に網目状やレース状の発しんが広がりますが、これらは1週間程度で消失します。少ないケースですが、一度消えた発しんが短期間のうちに再び出現したりするなど長引くこともあります。成人では関節痛を伴う関節炎や頭痛などの症状が出ることもありますが、ほとんどは合併症を起こすことなく自然に回復します。



※画像は紅斑の現れたこども(厚労省HP)

 

感染経路と予防と対策

 飛沫感染や接触感染により感染しますので、対策の基本の「手洗い・うがい・マスク着用・咳エチケット・現場の換気・共用タオルの中止」は同じです。軽い症状の病気のため、予防薬もワクチンもなく、特別な治療法はありません。また、感染しても症状がない場合(不顕性感染)もあります。

 

妊娠中又は妊娠の可能性がある方へ

 これまで伝染性紅斑に感染したことのない女性が妊娠中に感染した場合、胎児にも感染し、胎児水腫などの重篤な状態や、流産のリスクとなる可能性があります。熱や倦怠感が出現した後に発疹が出るなど、伝染性紅斑を疑う症状がある場合は、医療機関に相談しましょう。

 周囲に伝染性紅斑の人がいる場合は、妊婦健診の際に、医師に伝えてください。かぜ症状がある方との接触をできる限り避け、手洗いやマスクの着用などの基本的な感染予防(※)を行ってください。
(※)手洗い・うがい・マスク着用・咳エチケット・現場の換気・タオルの個別使用
 

冬の感染対策をお願いします(厚労省)

 インフルエンザは2024年第44週(10月28日から11月3日まで)に定点当たり報告数が流行開始の目安である「1」を上回り、流行シーズン入りしました。また、新型コロナウイルス感染症については、例年、冬にかけて感染者が増加する傾向が見られます。

 インフルエンザや新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症の予防には、「手洗い」「マスクの着用を含む咳(せき)エチケット」「換気」などが有効です。

 特に高齢者や基礎疾患のある方が感染すると、重症化するリスクが高まります。高齢の方と会ったり、通院や大人数で集まったりするときは、マスクの着用を含めた感染対策へのご協力をお願いします。

 
点検してみよう

感染症に対する自分の意識の持ち方などで、「油断」となってしまう要素はあるだろうか。

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