【紙ふうせんブログ】

令和4年

紙ふうせんだより 10月号 (2022/11/21)

荒海の航海者たち

皆様、いつもありがとうございます。急激に寒くなってしまいました。体調を崩してはいないでしょうか。10月4日から10日は、国連が定めた「世界宇宙週間(※1)」ということです。せっかくの秋の夜長ですから、想像の翼をもっと遠くへと飛翔させてみたいものです。

※1 米ソ冷戦激化の中、人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げを1957年10月4日にソ連が成功させたことに由来

 

どうやってこれからを生きるか

「2040年までに人類が火星を歩けるようにするのがわれわれの計画だ」米航空宇宙局(NASA)のネルソン局長は2023年度の予算要求に際してそう語っています。一方、中国運搬ロケット技術研究院の王院長は、中国政府が2033年にも「有人火星探査」を計画していると発表しています。人類の到達目標が先へ先へと進んでいくことに夢を感じながら10年後を想像すると、人類を火星に行かせられる時代にありながら、きっと私たちは利用者一人をデイサービスに行かせることにも四苦八苦していることでしょう。

科学技術の進歩は巨大ロケットの制御を可能にはしましたが、一人の人間を「思うがまま」に制御することは出来ないのです。また、「人間誘導装置」のようなものは発明されてはならないのです。一人の人間の「心の中の自由」や「独立性」を考えると、10年後も私たちが利用者さん対応で四苦八苦していることは、とても良いことなのだと考えられます。願わくばその四苦八苦が、介護側の要求を利用者さんに「どうやって呑み込ませるか」といった対立的な押し付けの構図ではなく、「これからを生きる楽しみを一緒に見つけよう」というような、利用者さんの気持ちを明るく元気にさせるようなものでありたいと思います。

 

人類史から利用者さんの嘆きを考える

「これからの楽しみ」について利用者さんと一緒に考えようとすると「こんなに長生きするとは思わなかった」という嘆息を聞くことがあります。その利用者さんが特別にネガティブだからでしょうか。そんなことはありませんから、この嘆きは個人を取り巻く社会構造の問題であることが伺えます。

医学の進歩は人々に長命の約束をしましたが、延長された時間を「どのように過ごしていくか」ということについては、回答を示してはいないのです。「長生きもあんまり良いもんじゃないね」という「生きづらさ」の表明は、この社会が窮屈で利用者さんの肩身を狭くしていることを示しています。医学の進歩による超高齢化社会に対して、人々の倫理観や人生観の成熟、社会保障制度の発展等が追いついていないのです。

古代の人類が農耕を開始すると、集住や余剰生産物の蓄積といった社会構造の変化が生じましたが、他所を襲って蓄えを奪う「戦争」が起こるようになりました。中世の封建制は更なる増産を可能にはしましたが、戦争は絶えず農奴は不自由な生活を強いられました。産業革命という生産技術の革新は、膨大な富を生じさせながらも人間の欲望と貧富の差を更に拡大させていきます。科学や技術の進歩やそこから生じる経済規模の拡大や社会構造の変化に対して、人類の倫理観の発展が常に遅れをとることは、人類史を見ても明らかなのです。

 

人間は後悔しないと反省できないのか?

欲望を剥き出しにした国家間の競争が第二次世界大戦となり8500万人もの人命を奪った後、1948年に「世界人権宣言」が国連で採択されました。二度の大戦の惨禍の反省を人類史に刻み、万人が、国家から独立した「人権」を生まれながらにして持っているということを世界の共通認識にしていこうという宣言です。

多くの人命が失われてからでないと、私たち人間は学ぶことができないのでしょうか。科学の粋を集めた原子爆弾が1発で何十万もの人間を殺傷できることを実地に証明してみせた時、原爆開発の提唱者の一人であるアインシュタイン博士は、その提言を「大きな誤り」として後悔したといいます(※2)。しかし米ソは核軍拡競争に突入していきます。核戦争が現実の脅威となり、1984年に放映開始のTVアニメ「北斗の拳」は、毎週木曜19時のお茶の間に「199X年、世界は核の炎に包まれた!」と告げ、食料や水を奪い合って暴力が支配するようになった終末後の世界を描いていました。

1986年に世界が保有する核弾頭数は、ついに7万374発(※3)となります。地球そのものを何回も木っ端みじんにできるような破壊力の総量、その“狂気”に米ソが我に返って「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならない(※4)」と反省し、1987年に核軍縮(※5)が開始されます。2022年、現在の世界の核弾頭保有数は1万2705発です。

 

※2 ナチスが核爆弾を開発し実際に使用するのではないかという恐れから、複数の科学者と連名でフランクリン・ルーズベルトに宛てた書簡から原爆開発計画が開始された。

※3 最大規模の核弾頭は1発で広島・長崎の原爆を合わせた威力の1500倍

※4 1983年レーガン米大統領来日時の国会演説「貴重な現代文明を維持するには政策はたったひとつしかないと私は確信している」に続く言葉

※5 1985年にソ連書記長となったゴルバチョフは核軍縮に積極的で翌年に米ソ首脳会談、1987年に中距離核戦略全廃条約調印

 

人類文明の最先端の孤独

私たちが作り出した複雑な社会システムは、「一度方向づけられると大きな問題が無い限り立ち止まることができない」自動機械のようなものなのでしょうか。私たち一人ひとりは、社会の荒波に呑み込まれ木っ端のように流されて、自分一人の心の安定を守ることがやっとの存在なのでしょうか。そうはなりたくありませんし、そうならない方法もきっとあるはずです。

命や人生に対して確実な視点から俯瞰することができれば、人類の諸問題に対して解決の糸口が見えてくるかもしれません。全ての人間に確実に言えるのは「やがて老い確実に死ぬ」未来です。死者の視点、命を大切にする視点、死に臨む人の視点を持って、自分自身や社会の在り様を再検討すること。それができれば後悔に沈む前に改めることができるのではないでしょうか。死に近接した視点を持ち得ることは介護職員の特権です。その意味では私たちは、利用者さんと共に人類文明が抱える問題の最先端にいるのかもしれません。

宇宙の旅の最先端にある人工天体はボイジャー1号(※6)です。この旅人は、2012年には太陽風の到達する限界のヘリオポーズを突破して太陽系を完全に離脱しています。現在地は地球から235億キロメートル。ボイジャー1号は、地球の生命や文化の存在を伝える音や画像を収録した金のレコードを人類の代表として搭載し、茫洋(ぼうよう)たる星間空間の中にありながら今も観測結果を地球へと送信し続けています。私たちもまた、介護現場で見聞きし感じたこと、そこから考えたことを、後の人類文明が良きものとなるように発信していきたいと思います。

 

 ※6 Voyagerは航海者、冒険者、旅人の意。1977年打ち上げ、木星と土星を探査し太陽系外に向かう
 


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