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日別:2022/12/20

紙ふうせんだより 11月号 (2022/12/20)

より良く生きるための「理想」と「他者」

今年も残すところあとひと月となりました。皆様、本当にありがとうございました。「終わりよければ全て良し」とするために、一年を振り返りつつやり残したことやこれから生じるであろう課題を見直して、取り組みの端緒を年内にも開いていければと願っています。

「現実」を「想い」の方へと手繰り寄せていくために

振返ってみると濃密な一年でした。私としましては令和3年度介護保険制度改正を会社として実態を伴うものとすべく業務継続計画など様々な作成に携わりました。就業規則の大幅改訂では、虐待やハラスメントや差別を「人権」という大きな軸で包括的に示すことによって、全ての人に「他人事」ではなく「自分事」として考えて貰いたいという想いがありました。壁となったのは、「どうせ文章を作り込んだところで、“建前と本音”が異なるように計画と現実は異なってくるのだから、テキトーにやっておけばよい」という声が自分の中からも聞こえてくることです。

しかしそれで本当に良いのでしょうか。理想が無ければ計画は最初から形だけであり実効性のある有意義な行動は生じてはきません。杜撰な計画でも意味のある成果が組織に生じているのなら、それは中の誰かが人知れず個人的な努力をしているからです。介護現場には、そのような心労を厭わずに利用者さんに寄り添って下さっているヘルパーさんが多くいます。それに応える為にも精一杯の努力をすることが私の務めです。

介護の在り方や介護業界や社会をもっと良くしたいという理想を描いても、その実現には何十年もかかるかもしれません。それでも理想を語る必要があるのは、より良い方向に向かっていくためには、人や社会には「理想」が必要だからです。理想はたいていぼんやりとした想いから始まって、無理にでも言葉を紡ぎだしていかない限り形は見えてきません。そして、明確に文章化されて共有されたものは「理念」となります。そこに具体的な取り組み内容が加われば「計画」へと発展します。

理想から理念へ、さらには計画へと押し進めていくためには、言語化と共感、共有と実行が必要です。これは全ての組織に言えることです。人類文明というマクロなものからケアチームというミクロなものまで、さらには自分自身の身心の中の「認知・想像・解釈・再認識・行動化」などの意思決定プロセスも同様です。

「想い」を形に変えていく

 

理想がなければ人は、日々をただ生きるだけとなります。昨日から今日、今日から明日への変化は、歳月を重ねただけということになってしまいます。しかし実際は、人は無為に見えるような間にも何かを学んでいくことができています。全ての人は、自覚の差はあるにせよ「より良く生きたい」という想いを持っているからです。

その本能のような原初的な理想を自覚し、他者にも同じような理想があることを知って、本当は「何が良いのか」と問い直しをした時、人は主観を脇に置いて「理想」の視点から自身を見つめ直します。そうやって見えてきた「想い」に形を与えていった時、人は良い方向へと大きく変わっていくのです。

 

「自己」の可能性を拡げる「他者」

一方で、「どうせ俺はダメだ」との諦めに沈むセルフネグレクトの方もいます。「より良く生きよう」という気持ちはなぜ失われてしまったのでしょう。「より良く」という対象に「自分」しか入っていない状態が長く続けば自分しか見なくなり、諦めてしまうことも簡単になります。命の危険から逃げる時に、背中に子供をおんぶしているのといないのとでは、生存への執念は異なってきます。おぶさるものは子供である必要は無く、社会的な責任や責任感を持っていることも同様です。どうやら社会的な動物である人類は、「他者」との関わりによって、「自己」のポテンシャルが最大化されるようになっているようなのです。

遺伝子の一部をホモ・サピエンスに残しながら絶滅してしまった別種の人類に、ネアンデルタール人がいます。なぜ絶滅したのか。諸説ありますが、ホモ・サピエンスが使用する石器をより良く工夫させていくことに対して、ネアンデルタール人はほとんど石器を進化させていませんでした。強靭な身体を持っていた為か、ネアンデルタール人は小集団で生活しており、他者や社会の拡がりがホモ・サピエンスよりも狭かったと考えられるのです。

もし自分が何かを諦めそうになった時、自分の心を励ますためには、内側に向かっていく自分の気持ちを外に向けてくれる「他者」が必要です。まずは自分が何かをすることによって「笑顔」になる誰かの顔を思い浮かべること。しかしその顔は、必ずしも具体的である必要はありません。具体的な対象にしか興味がなければ「自分の仲間の幸福の為には、知らない人を犠牲にしても構わない」という“自己中心”になるからです。

「誰かの為に」ということの本当の意味は、未だ知らない他者によって自分は支えられているということを知っていくことであり、「他者の大切さ(※1)」とは見ず知らずの人を考慮に入れ考慮対象を拡げていくと共に、既に知っている仲間のような人でさえも本当は依然として「他者」であり、浅い考慮を改めて深い理解に至ろうとすることの大切さなのです。

このような「他者性」の拡がりを持っている人は、“信じていた人”との食い違いがあっても全否定に傾かずに、問題を冷静に考えられます。自己に対する他者の意味の本質はその「予測不可能性」にあり、それは良く変わる「可能性」でもあります。可能性を否定してしまう時、人は孤独になるのです。

私たちが利用者宅に赴く時、孤独な人が「反発」をするということがあります。自分が予測可能な世界に閉じこもろうとしている時に邪魔をする「他者」が現れたから、「毅然とした自己」を他者に見せつけようとして気持ちを奮い起こしているのです。そうしながらも訪問を受け入れていった時、その人の心の中には新たな可能性という「他者」が生じてきています。奮い起きた「他者」は、もう一度生きてみようという気持ちを起させるのです。

 

※1 他者を追究することは、一方で確立した自己意識を常に脅かされることであるが、その脅威が私を変化させ他者もまた私によって変化を受ける。(略)寿命の延長が、私たちに変化というタームを取り込む哲学の必要性を促している(略)。他者理論の要請は、長い人生を送るなかで変化する私自身を理解する必要性からも生まれている

「21 世紀の展望と他者論」関未玲
 

人権という「理想」

より良く生きる為には、人は自分と同じように「他者」をも守らなければなりません。「他者と自己」の中に共通して存在する「守るべきもの」とは何でしょう。

歴史的な積み重ねの中から言語化してそれを原理として示したものが「人権」です。1948年の「世界人権宣言(※2)」の採択を記念して、毎年12月10日は「国際人権Day」となっています。戦争への誘惑は常に人権の軽視と共にあるのですから、人権を守ることを世界の共通認識としていくことによっても、平和な世界という「理想」に現実を近づけていくことができるのです。

※2 「私には、人間の至上の価値に関するコンセンサスが生まれた、まさに歴史上の一大事に参加しているというはっきりとした認識がありました。その価値は、世俗的な権力者の決定ではなく、人間の存在という事実それ自体に由来するものであり…」起草小委員会のメンバーを務めていたエルナン・サンタクルス(チリ)の言葉。50カ国を超える国が原案の策定に参加した。

 

 
紙面研修
世界人権宣言
 
世界人権宣言は,基本的人権尊重の原則を定めたものであり,初めて人権保障の目標や基準を国際的にうたった画期的なものです。(法務省HPより)

20世紀には,世界を巻き込んだ大戦が二度も起こり,特に第二次世界大戦中においては,特定の人種の迫害,大量虐殺など,人権侵害,人権抑圧が横行しました。このような経験から,人権問題は国際社会全体にかかわる問題であり,人権の保障が世界平和の基礎であるという考え方が主流になってきました。

そこで,昭和23年(1948年)12月10日,国連第3回総会(パリ)において,「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として,「世界人権宣言」が採択されました。

世界人権宣言は,基本的人権尊重の原則を定めたものであり,それ自体が法的拘束力を持つものではありませんが,初めて人権の保障を国際的にうたった画期的なものです。

この宣言は,すべての人々が持っている市民的,政治的,経済的,社会的,文化的分野にわたる多くの権利を内容とし,前文と30の条文からなっており,世界各国の憲法や法律に取り入れられるとともに,様々な国際会議の決議にも用いられ,世界各国に強い影響を及ぼしています。
 

 

【世界人権宣言】外務省仮訳文

前文(要点の抜粋)

・人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である。

・人権の無視及び軽侮が人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらした。

・言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言された。

・人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権保護することが肝要である。

第一条 

すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

第二条 

1すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。

2さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。

第三条 

すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。

第四条 

何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。

第五条 

何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。

第六条 

すべて人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。

第七条 

すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する。

第八条 

すべて人は、憲法又は法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する。

第九条 

何人も、ほしいままに逮捕、拘禁、又は追放されることはない。

第十条 

すべて人は、自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当っては、独立の公平な裁判所による公正な公開の審理を受けることについて完全に平等の権利を有する。

第十一条 

1犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。

2何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった作為又は不作為のために有罪とされることはない。また、犯罪が行われた時に適用される刑罰より重い刑罰を課せられない。

第十二条 

何人も、自己の私事、家族、家庭若しくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。

第十三条 

1すべて人は、各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。

2すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。

第十四条 

1すべて人は、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、避難する権利を有する。

2この権利は、もっぱら非政治犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為を原因とする訴追の場合には、援用することはできない。

第十五条 

1すべて人は、国籍をもつ権利を有する。

2何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。

第十六条 

1成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。

2婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。

3家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。

第十七条 

1すべて人は、単独で又は他の者と共同して財産を所有する権利を有する。2何人も、ほしいままに自己の財産を奪われることはない。

第十八条 

すべて人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。

第十九条 すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。

第二十条 

1すべての人は、平和的集会及び結社の自由に対する権利を有する。

2何人も、結社に属することを強制されない。

第二十一条 

1すべて人は、直接に又は自由に選出された代表者を通じて、自国の政治に参与する権利を有する。

2すべて人は、自国においてひとしく公務につく権利を有する。

3人民の意思は、統治の権力の基礎とならなければならない。この意思は、定期のかつ真正な選挙によって表明されなければならない。この選挙は、平等の普通選挙によるものでなければならず、また、秘密投票又はこれと同等の自由が保障される投票手続によって行われなければならない。

第二十二条 

すべて人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ、国家的努力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利を実現する権利を有する。

第二十三条 

1すべて人は、勤労し、職業を自由に選択し、公正かつ有利な勤労条件を確保し、及び失業に対する保護を受ける権利を有する。

2すべて人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する。

3勤労する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公正かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる。

4すべて人は、自己の利益を保護するために労働組合を組織し、及びこれに参加する権利を有する。

第二十四条 

すべて人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を有する。

第二十五条 

1すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。

2母と子とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は、嫡出であると否とを問わず、同じ社会的保護を受ける。

第二十六条 

1すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるものでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない。

2教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人種的若しくは宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならない。3親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。

第二十七条 1すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。

2すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。

第二十八条 

すべて人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有する。※

第二十九条 

1すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあってのみ可能である社会に対して義務を負う。

2すべて人は、自己の権利及び自由を行使するに当っては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって定められた制限にのみ服する。

3これらの権利及び自由は、いかなる場合にも、国際連合の目的及び原則に反して行使してはならない。

第三十条 

この宣言のいかなる規定も、いずれかの国、集団又は個人に対して、この宣言に掲げる権利及び自由の破壊を目的とする活動に従事し、又はそのような目的を有する行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。

 

※「この宣言が口先だけで終わらないような世界を作ろうとする権利もまた、わたしたちのものです」

詩人の谷川俊太郎による世界人権宣言の訳文の第28条には、このように書かれています。

(※谷川俊太郎の訳文はアムネスティーインターナショナルのHPに記載されています)

 
考えてみよう

世界人権宣言の理想を理想で終わらせないためには、自分には何ができるだろう
 

 


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