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紙ふうせんだより 7月号 (2024/08/16)

境界線を越えて

皆様、いつもありがとうございます。熱中症にご注意下さい。水分とともに塩分やミネラルやビタミンの摂取にも気を配って下さい。落日にほっとしてしまう猛暑です。日が沈んでほの暗くなる頃には、銀河が頭上に横たわります。今では都市部では見ることができない天の川ですが、この霞んだ空を突き抜けたなら、そこに今でもあるのです。

荒海や佐渡に横たふ天河(あまのがわ)

これは、旧暦の七夕に近い頃(新暦の8月18日)の松尾芭蕉の句です。風がごうごうと吹きすさぶ荒波の立つ日にも、天の川は泰然と空に掛かっています。現世の無常や困難のその先に永遠の光彩を放つ銀河。この荒海を越えることができたならば、この悲しみもきっと癒えるでしょう。そんな夢想をしてしまうような星空がこの世界のどこかにあるのです。

想像の翼

もし、どこまでも飛んでいける翼があって、輝けるあの天の川を目指したとしましょう。空と宇宙に境界線はあるのでしょうか。雨が降り雲が流れる対流圏を越え、成層圏のジェット気流を突き抜けて羽ばたいた時、どこからが「宇宙」となるのでしょうか。

やがて、漆黒の海のような空間に数多の星が輝き、足元に青い惑星が見えるようになるでしょう。それでも私たちは明確な空と宇宙との境界線を見つけられないはずです。地上に立っていた時は大地と空が二分され、空に掛かる川は境界のように見えました。その川は、あちらの世界とこちらの世界を橋渡しするようにも、区切っているようにも見えます。しかし今、大地を離れた身となって虚空に浮かんでみると、不思議なことに一切の境界が見当たらないのです。

空と宇宙に境が無いように地球と宇宙に境は無く、地球は宇宙の一部であり、「私」も宇宙の一部なのです。満天の星に圧倒され私の身体が透けて消えて行くように感じます。漆黒の宇宙が潮のように身体を満たします。静まった心はどこまでいっても尽きない深淵のようです。静寂に叫びたくなります。「やまびこ」に返答を求める旅人のように、「誰かいませんか」と、その声を聞いてみたくなるのです。どこまでも続く星空と、ここに私が居ます。

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自己と他者の境界

私たちは身体を持っています。目を開けば、自分の手足が見えて他人の姿を確認します。この身体によって世界は区切られています。あなたと私の境界は身体によって明瞭です。本当にそうでしょうか。

身体の自他を区別するものは免疫機能ですが、免疫機構(※1)の発現には、「自己」を定義する設計図があらかじめ存在していないことが知られています。自己免疫疾患というものもあります。生物の身体の自己・非自己は思いの外にあいまいで、私たちの体細胞の中にあるミトコンドリアは別種の生物が取り込まれたまま温存された機関ですし、私たちの身体に共生する腸内細菌は、約1000種類、100兆個に及ぶとも言われています。

自己と他者の境界を作り、区別を決めているのは身体であると完全には言えないのです。




※1多田富雄の「免疫の意味論」では、免疫とは自己への寛容と非自己の排除であり「身体的に『自己』を規定しているのは免疫系であって、脳ではない」とし、身体の免疫機構の発現は多くの偶然や確率の積み重ねによると論じる。最終章では「『自己』というのは、『自己』の行為そのものであって、『自己』という固定したものではないことになる」と、固定した自己観を解体する。




あいまいな自己

自己と他者の境界線はどこにあるのでしょう。実際の人間関係での心理的な境界は、場面や環境や相手に応じて高くなったり低くなったり厚くなったり薄くなったりするものですが、その柔軟性が上手く育まれていなかったり失われてしまったりすると、自分の意に添わないのに相手の行為を受け入れてしまったり、要らぬおせっかいを焼いてみたり、硬い人間関係になったりしてしまいます。

「境界の在り方に不安を覚えた時、『境界線』を意識してしまう」とも、「下手に『境界線』を意識してしまうから、境界の在り方に不安を覚える」とも言えましょう。自他の「境界線」は、何かで明瞭に引くことができるのでしょうか。

1996年、マカクザルの脳に電極を設置した実験中に、サル自身は動作をしていないのに、人間がエサを取る動作に反応する脳の活動が観察されました。この脳活動は人間にも見られ、他者の行為を見ている時も、自分が行為をしている時も、同じ行為に対して同じように反応するので、その神経細胞はミラーニューロンと呼ばれるようになりました。

行為の由来が自己であっても他者であっても同じ反応をするので、脳中枢のこのレベルでは、「行為」だけが表象されて、それが自己か他者のものかは、区別されていないようなのです。

「自己」という意識の可能性

自己と感じる最小の要因とは何でしょう。科学的な自己研究では、それをミニマル・セルフと呼び、時間的な広がりをほぼ持たずに成立している最小の要因を二つに分けています。それは「主体感」と「所有感」です。主体感とは「私がこの行為を引き起こしている」という感じで、所有感とは「この行為は私の経験である」という感じです。そして「主体感」は運動神経と密接な関わりがあり、「所有感」は視覚などの五感に影響を受けています。

片麻痺の患者は、しばしば自分の麻痺側を「自分の身体では無い」と感じます。思い通りに身体が動かせる主体感がないからです。しかし、麻痺側の腕にモニターをかぶせ、腕のCG映像(健側を映した鏡でも良い)を見せ、そのCGが患者の命令通りに動くようにしてやると、患者はCGの腕を自分の腕だと錯覚して、自分の腕が動いていると感じます。視覚によって所有感が刺激され、主体感と結びつくからです。この刺激に運動神経が活性化します。

すると、全く動かなかった麻痺側が動かせるまでに回復することがあり、これはリハビリ方法としても研究されています。脳科学では、この所有感は大脳皮質正中内側部構造(※2)との関わりがあるとされています。この部位は、安静時の内省状態で高まる「デフォルトモードネットワーク」という脳活動の主要領域です。そして、マインドフルネス瞑想はこの活動を穏やかにする効果があります。

デフォルトモードネットワーク(※3)が静まりミラーニューロンの表象が意識された時、宇宙との一体感や他者との融合感という、深い自己存在感や自己超越感を覚える可能性があり、これは脳科学でも説明し得ることなのです。私たちは「自己」という認識を持つがゆえに「他者」を意識し、他者とより深く結びつくことができるのです。

私たちの仕事は、利用者さんを他者として尊重することから始まります。尊重は相手への観察となります。するとミラーニューロンが活発化し利用者さんの感覚が伝わってくるようになります。それは同時に、あなたの「気持ちが良い」は私の「気持ちが良い」となります。利用者さんは他者であると同時に、自己自身でもあるとも言えるのです。




※2(大脳皮質正中内側部構造は)たんに身体の所有感に対応しているというより,「身体が存在する」という背景的感覚に対応して,「私が存在する」という基底的な自己意識に関係しているように思われる。(田中彰吾・日本心理学会「心理学ワールド」90号)

※3自己認識機能を担っていると考えられるが、活動過剰になると雑念や思考が止まらなくなり不安や疲労の原因ともなる。





紙面研修

脱水・電解質代謝異常

電解質とは

私たちの身体の水分(体液)には「電解質」が含まれています。電解質とは英語で「イオン」を意味します。イオンとは、中性の原子が、正(+ 陽イオン)と負(- 陰イオン)どちらかの電気を帯びた状態(イオン化)のことです。生理学などでの「電解質」は、体液に溶け込んでいる時にイオン化する物質のことで、電気を帯びているその性質から筋肉細胞や神経細胞の働きに関わり、細胞の浸透圧を調節するなど生命維持にとってとても重要です。主な電解質には、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リン(P)、クロール(Cl)、重炭酸(HCO3–)などがあります。

通常の状態の身体であれば体内の電解質は動的に恒常性を保っており一定の範囲内にありますが、適正な範囲を外れてしまうと、細胞や筋肉や臓器の機能に悪影響を及ぼします。そして、腎不全や尿細管の病気や尿の生成を調整する内分泌ホルモンの異常などがあれば、電解質代謝異常になってしまい、命にかかわることもあります。「だるい、立ち上がりが困難」などの訴えにより検査したら、急性腎不全になっていたということもあります。

下表では、血液中の電解質の量に異常がある場合には、どのような症状が現れるかを記しています。病気の症状としては、低い場合を「低○○(電解質の名称)血症」、高い場合を「高〇〇血症」と言います。

※下記以外にも様々なことが言われているので調べてみて下さい。
電解質の名称 低い場合 高い場合
ナトリウム 疲労感、反応が鈍くなる、錯覚する、頭痛、意識障害、
手足のつりや脱力
意識障害、口渇、
高血圧、慢性腎臓病
カリウム 手足のつりや脱力、筋力低下やけいれん、むくみ、
不整脈
徐脈(脈が遅い)、
手足のつりや脱力、血圧低下
カルシウム イライラする、手足のつりや脱力、疲れやすい、
まぶたがピクピクする
口渇、食思不振、悪心、嘔吐、便秘や下痢
マグネシウム 頭痛、うつ、食思不振、悪心、
嘔吐、不整脈手足のつりや脱力
血圧低下、吐き気、
嘔吐、食欲不振、めまい、ふらつき
本当に怖い脱水

「脱水症」とは何らかの原因で体液量が不足した状態を言います。身体の水分量が若者に比べて少ない高齢者は、脱水症になると意識障害を起こしやすく、血液が濃縮され血栓ができやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞などを発症しやすくなります。

炎天下などで活動を行うと発汗をします。すると、汗と共に電解質が失われることになります。炎天下ではなくとも、熱い部屋で就寝していて朝には喉が渇いている場合などは、就寝中にやはり多くの発汗をしています。この気が付きにくい発汗も要注意です。

発汗の際は、「塩分(塩化ナトリウム=電解質)を補った方が良い」と言われるのは、お茶や水分は摂っても電解質を補わなかった場合、血液中の電解質の濃度が低下してしまう恐れがあるからです。

電解質に着目した水分や食事の摂取

暑さによって食欲が低下する季節や発熱や下痢になった後なども、食事量の低下によっても必要な電解質が不足することがあります。その際は、水分と共に電解質に着目した水分や食事の摂取必要です。

頭がぼんやりする(意識障害)、身体を動かすのがおっくう(脱力)、食べたくない(食欲不振)、足があがりにくい、前に出ない(手足のつり)などの訴えが見られた時は、身体の衰えや単なる疲れなどとして「通常の延長」と考えてしまわないようにしましょう。電解質量の低下が「疲れていておっくうだから食べたくない」という状態を引き起こしていたとしたら、放置してしまうことは悪循環となり症状を悪化させてしまいます。

なお、脱水や食欲不振による電解質の異常は一時的なもので、適切な補給によりすぐに回復します。一方で、電解質を過剰に摂取し過ぎることは高血圧の原因となりましすし、腎臓に負担がかかれば慢性腎臓病となってしまい、それによっても電解質代謝異常となります。




ポカリスエット(100ml当たり)

エネルギー:25kcal

タンパク質・脂質:0g

炭水化物:6.2g

ナトリウムイオン:49mg

カリウムイオン:20mg

カルシウムイオン:2mg

マグネシウムイオン:0.6mg




生活の中での工夫

あるヘルパーさんは、外出時に「梅干し」を持ち歩いていると言われていました。これも上手な工夫です。

電解質を補給するスポーツドリンクでは元祖である「ポカリスエット」が有名です。ただし、糖分の多い清涼飲料水は、大量に飲むことによって急激な血糖値の上昇が起こり急性の糖尿病合併症(ペットボトル症候群、若年層に多く見られる)を起すことがあり、一度の大量飲用は避けるべきです。

利用者さん宅では、いわゆる「塩分タブレット」などを購入し、お茶の時に「これも食べてね」と勧めてみることも大切な取り組みです。




考えてみよう

今まで起こった体調不良の中には、「電解質代謝異常」ではないか?と思われるものは無かっただろうか。今関わっている利用者さんで、脱水や熱中症の危険が伴う生活状況の方はいるだろうか?





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